権利のこと 考えてみよう! 憲法に謳われる基本的人権とは!! 「JD連続講座」 2014年1月29日 弁護士 藤岡 毅 障害者権利条約の経過 @ 2006年12月 国連 採択 A 2007年9月 日本政府署名 B 2008年5月 国際的に発効 C 2013年12月4日 国会で批准承認 D 2014年1月20日 批准(批准書を国連事務総長に寄託) E 2014年2月19日 国内的効力発効 障害者権利条約 日本140番目の締約国に 日本の国連大使が国連に障 害者権利条約の批准書を提出 し、日本が140番目の締約国となりました。ニューヨークの国連本部では 2014年1月20日、吉川元偉国 連大使が国連法務局のビジャ ルパンド課長に条約の批准書を 提出し、日本は正式に140番目 の締約国となりました。(写真・NHKニュースより) 近年の障害者制度改革のまとめ 2006年 12月13日 障害者権利条約 国連で採択 2007年 9月28日 障害者権利条約 に日本が署名 2009年 12月 8日 障がい者制度改革推進本部の設置 15日推進会議の設置 2010年 1月7日 障害者自立支援法違憲訴訟団と国との基本合意 2011年 6月17日 「障害者虐待防止法」成立…………2012年10月施行 7月29日 「障害者基本法」の改正 @ 医学モデルから社会モデルへの転換 A 障害者を保護の客体から権利の主体へ 8月30日 障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言 2012年 6月20日 「障害者総合支援法」の成立……………2013年4月施行 一定の難病患者も法の対象に等の改正 9月14日 「障害を理由とする差別の禁止に関する法制」についての意見 2013年 6月19日「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」成立 …2016年4月施行 12月4日 国会が障害者権利条約の批准承認 2014年 1月20日 日本 140番目の権利条約批准国に 2月19日 権利条約 国内法的効力発効 2011年8月5日 改正障害者基本法の施行 参考まで:総合リハビリテーション(医学書院) 2013年08月号 「特集障害児者に関わる法制度改革の動向」「障害関連法制の改革に関する最新動向」藤井克徳 「2011年改正障害者基本法の意義−障がい者制度改革の成果」藤岡毅 日本国憲法 障害者権利条約 障害者基本法 差別解消法・虐待防止法 福祉法・雇用法・教育法他 そもそも「人権」って なんだ… 人権(human rights)=「人間がただ人間であることにも とづいて当然にもっている権利」 18〜19世紀に生まれた「人権」という観念 これは「自由権」を意味した。但し、平等・幸福追求権が最初から内蔵されていることは意外と忘れられている。 身分や階級に基づくが当たり前であった王政、封建制に対する 対抗概念として、18世紀後半のアメリカとフランスの市民革命により生 み出された概念。 ・ヴァージニア権利章典 1776年 アメリカ 第1条 「すべて人は、生来ひとしく自由かつ独立しており、…奪うこと のできないもの。 この権利は、…幸福と安全とを追求獲得する手段を伴い生命と自由を 享受する権利である。」 アメリカ独立宣言 「すべての人間は平等に造られ… 権利を与えられており、…生命、自由 及び幸福の追求が含まれている。」 フランス人権宣言 1789年 「人は自由かつ権利において平等なものとして出生し、かつ生存する。社会的差別は、共同の利益に基づ いてのみ設けることができる。」 人権の本質的特徴 無条件付与(天賦人権) 自由 平等→普遍性 尊厳 これらが全て両立して初めて「人権」 「エゴ」、「個人主義」は対立概念。 ?お互いの存在を認め合い相手の尊厳を徹底的に保障することが自由と 平等を実現する。 20世紀の人権 社会権 形式的平等から 実質的平等へ 資本主義の高度発展、市場経済による自由競争により必然的に 発生する「敗者」。 失業・貧困・格差等の弊害を国家が積極的に是正することを社 会権として保障する、福祉国家概念。 ワイマール憲法 第151条 「すべての者に人間たるに値する清 潔を保障する目的を持つ正義の原則」 第二次大戦後の民主制国家の基本は、19世紀の自由権的基 本権と20世紀の社会権の両輪。 日本国憲法第25条 生存権規定 21世紀の人権 自由権と社会権の不即不離(一体的成立) 障害者の人権は典型。 障害者権利条約(四)は、自由権と社会権の融合が特徴。 従来「社会権」(制度や政策があるから初めて発生する権利)と見られてきた権利 の本質は基本的自由を回復する自由権的基本権であるという視点の重要性。 自由競争や民主社会に参加する前提条件から排除されている人にそれを保障す ることは自由権的基本権の保障、民主社会成立のための基盤。 権利条約の目的ってなんだっけ? 権利条約の目的 (Article 1 ? Purpose) The purpose(目的)of the present Convention(この条約の)is to promote(促進すること), protect and ensure(保護し、及び確保する)the full and equal enjoyment(完全かつ平等な享有を)of all human rights and fundamental freedoms (あらゆる人権及び基本的自由)by all persons with disabilities(すべての障害者による),and to promote (促進することを)respect for(の尊重を) their inherent dignity(固有の尊厳). 障害者権利条約の目的は全ての障害者のあらゆる基本的人権が、完全 にそして平等に享有されることが、 今よりもっと促進され、確実に守られ、しっかり と実現されること及び 障害者一人ひとりの人間としての尊厳が尊重 される社会になること 憲法上の基本的人権 13条 幸福追求権・個人の尊厳 14条 平等権(差別されない権利) 22条 居住、移動の自由 25条 生存権(尊厳をもって生きる権利) 「障害者にも一人の人間として あたりまえに生きる権利がある」 様々な闘い延長戦上に今がある。 ? 鈴花ちゃん訴訟 2006年10月25日 東京地裁 東大和市 保育園入園義務付判決 (判例タイムズ1233号117頁) 新聞記事PDF略 ? 第一次鈴木訴訟 2006年11月29日 東京地裁判決 大田区が要綱により移動支援費を削減した処分を裁量権逸脱として違法判断。 新聞記事PDF略 奈良地裁2009年6月26日 決定 車いすの中学生普通中学仮の入学義務付け決定 車いす少女の中学入学拒否「妥当性欠き違法」 希望した地元の町立中学への進学を拒 否された車いすの谷口明花(めいか)さ ん(12)=奈良県下市(しもいち)町=と 両親が、町と町教育委員会に入学を認め るよう求めた訴訟で、奈良地裁は26日、 町教委などに入学許可を仮に義務づけ る決定を出した。 決定によると裁判長入学拒否について 「慎重に判断したとは認めがたく、著しく 妥当性を欠き、裁量権を逸脱または乱用 したものとして違法である」などと批判。町教委などに対し、町立下市中学校への仮の入学許可を出すよう命じた。(朝日新聞より) 介護者割引の説明義務違反事件東京高裁 2009年9月30日判決 「判例時報」2059号(2010年1月21日号68頁〜)、 「判例タイムズ」1309号(2010年1月1日号・98〜102頁)、 移動の自由の保障は、憲法13条の一内容というべきものと解するのが相当である。ところが、身体障害者は、健常者と異なり、程度の差こそあるものの移動の自由が損なわれている。したがって、身体障害者にとっての移動の自由は、健常者と同様に、場合によれ ば健常者より以上に、その自立を図り、生活圏を拡大し、社会経済活動への参加 を促進するという観点からは、大きな意義がある…身体障害者に対し移動の自由を保障することはその福祉増進に資するものとして、政策的に支援することが求められ…(身体障害者福祉法3条)。…憲法13条の趣旨から身体障害者についても移動の自由が保障されるべきであり、運賃割引制度にはその経済的負担を軽減することにより、移動の自由を保障するという実質的な意義がある。 訴訟団と政府基本合意を調印 2010年1月7日、厚労省大講堂 和歌山地裁2010年12月17日 石田訴訟判決 「賃金と社会保障」1537号 20 頁 1 日 24 時間介護の義務付け判決を原告が求めた。判決は現状の 13 時間の支給量は極めて少ないとして、違法な処分として取り消した。 1 日 16 時間以上、 24 時間以下の支給量を義務付ける判決を下した。大阪高裁2011年12月14日判決 高裁判決は 1 日 18 時間以上の支給量を義務付ける判決を下し、確定した。 東京地裁 2013年3月14日判決 成年後見選挙権喪失は「違憲」「堂々と社会参加を」 新聞記事PDF 障害者虐待1500件 読売新聞 略 障害者差別の現実 文京区内 の現在の実例 実際にこのような 偏見に満ち溢れた 反対運動は全国各 地で今も頻発し、 障害者は社会生活 から排除・差別さ れている! 抗議 私たち住民は障害者施設建設の即時中止と 白紙撤回を要求する。 1 住民説明会では障害児の親御さんを除いて 全員がこの計画に強硬に反対している。 2 知的障害者が社会生活に重大な危険をも たらすことは各種文献で明らかです。 ある調査では、約半数(47%)の知的障害者が、 「暴力」 「怒りっぽい」 「自傷」 「情緒不安定」 「荒々しい態度」 「物を傷つける」 「こだわり」 「パニック」 「通所拒否」 「独り言」 「無気力」 「動きが少ない」などの問題 行為が報告されています。 障害者の問題行動は、 「家庭で茶碗を投げ壊 す」程度には終わらないことは、東金市の女児 殺害事件の例を出すまでもありません。 問題行動を起こす高い確率を持つ知的障害 者が与える恐怖感は、近隣の住民の平和と住 民生活の基本を脅かす。 よって、本計画に近隣住民及びその関係者は 一致団結して本計画に反対します。 国際人権法の実施と 障害者の人権 日本国憲法 国際協調主義の採用 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配 する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国 民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しよう と決意した。 われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上か ら永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある 地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、 平和のうちに生存する権利を有することを確認する。 われらは、いづれの国家も、自国のこと のみに専念して他国を無視してはならな いのであつて、政治道徳の法則は、普遍 的なものであり、この法則に従ふことは、 自国の主権を維持し、他国と対等関係に 立たうとする各国の責務であると信ずる。 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力 をあげてこの崇高な理想と目的を達成す ることを誓ふ。 日本国憲法第98条 2項 日本国が締結した条約及び確立 された国際法規は、これを誠実 に遵守することを必要とする。 フランスの自閉症団体がヨーロッパ人権裁判所に人権救済を集団的に申し立てた事件があります。2002年に申し立てられ、2003年11月4日ヨーロッパ社会権委員会が決定を出した。 「自閉症・ヨーロッパ」 (NGO)対フランス事件と呼ばれます。 ヨーロッパ社会憲章 略 申立人側は フランスにおいて、自閉症児が教育 の機会を与えられないことは 障害者差別 であると主張しました。2003年11月14日 社会権委員会の決定は 申立人側の主張を認めE条で禁止されている 「間接差別」に当たりうると認定しました。 決定の内容の一部 実は、この事件の続きという べき、第二次集団申立てが 2012年3月なされています。では、2003年決定は意味がなかっ たのでしょうか? 決してそうではありません。 フランス政府は2003年の条約違反であるとの決定を受けて、初めて、2005年から2007年にかけて「自閉症に関する計画」を策定した(その後2008〜2010年の計画も策定)。  また2005年には、障害のある子どもたちの教育制度への統合強化を目的とした「障害法」を制定した。2005年3月8日には、自閉症をもつ青少年の就学と職業訓練の改善をはかる省庁間通達を出した。  2012年には「国の重要問題としての自閉症年2012(Grande cause nationale autism 2012)」を宣言しキャンペーンを行った。 しかし、具体的な成果として、2回目の計画(2008年 〜)における、自閉症児者の追加的な就労等の場所 の創設は2010年末までに1672か所にとどまっている とされ、原因として予算不足が指摘されています。 2003年決定を受けてフランス政府としてはそれなり に取り組んだものの、自閉症児の教育への実効的アク セスと社会統合の面でまだ十分な進歩が得られたとは 言えない、ということで上記の新たな申立が起こされて います。 ただ、少なくともフランス政府はヨーロッパ社会権委 員会の決定を無視しているわけでは決してなく、国の 重要課題として政策に盛り込み、一定の取組みをして いることは間違いない。 「グロール対スイス政府事件」ヨーロッパ人権裁判所 2009年11月6日判決 事案:病気(糖尿病)により兵役に就くことが困難な 者に課税されたことを不服とした。 スイスで、この税は、重大な障害を持つ者には課 せられないが、申立人のそれは重大ではないとされ た。 良心的兵役拒否者には、代替的公務提供の機会 が与えられるが、申立人にはこの機会も与えられな かつたことは差別であると主張。 ヨーロッパ人権裁判所 2009年11月6日判決 略 これらの国際人権条約の実践例は私たちがなすべきことについて、大変示唆に富むものです。 障害者権利条約 第五条 平等及び差別されないこと 1 締約国は、全ての者が、法律の前に又は法律に基づ いて平等であり、並びにいかなる差別もなしに法律による 平等の保護及び利益を受ける権利を有することを認める。 2 締約国は、障害を理由とするあらゆる差別を禁止する ものとし、いかなる理由による差別に対しても平等かつ効 果的な法的保護を障害者に保障する。 3 締約国は、平等を促進し、及び差別を撤廃することを 目的として、合理的配慮が提供されることを確保するため のすべての適当な措置をとる。 第三十三条 国内における実施及び監視 3 市民社会(特に、障害者 及び障害者を代表する団 体)は、監視の過程に十分 に関与し、かつ、参加する。 第三十五条 締約国による報告 1 各締約国は、この条約に基づく義務を 履行するためにとった措置及びこれらの措 置によりもたらされた進歩に関する包括的 な報告を、この条約が自国について効力を 生じた後二年以内に国際連合事務総長を通 じて委員会に提出する。 2 その後、締約国は、少なくとも四年ご とに、更に委員会が要請するときはいつで も、その後の報告を提出する。 第三十六条 報告の検討 1 委員会は、各報告を検討する。委員会は、当該 報告について、適当と認める提案及び一般的な性 格を有する勧告(注「一般的勧告」general recommendations)を行うことができるものとし、これら の提案及び一般的な性格を有する勧告を関係締 約国に送付する。当該関係締約国は、委員会に対 し、自国が選択する情報を提供することにより回答 することができる。委員会は、この条約の実施に関 連する追加の情報を当該関係締約国に要請することができる。 他の人権条約の例 女性差別撤廃委員会(女性差別撤廃条約・日本は1985年に批准) 2009年8月7日付「最終勧告」(総括所見) 「委員会はまた、戸籍、相続権に関する法や行政措置における嫡出でない子に対する差別及びその結果としての女性への重大な影響に懸念を有する。」「委員会は依然として存在する差別的な法規定を廃止し、法や行政上の措置を条約に沿ったものとすることを要請する。」 最高裁も国際条 約をようやく意識 し始めた 最高裁大法廷 2013年9月4日決定 婚外子の相続分を2分の1と する民法の規定を違憲・無効と 全員一致で判断した決定。その理由に国連からの勧告 等が多く引用されている。 日本の裁判所が条約を直接 適用した判例は少なくない 徳島地方裁判所平成8年3月15日 「接見交通権事件」判決(判例時報1597号115頁) 「B規約は自由権的な基本権を内容として、当該 権利が人類社会のすべての構成員によって享受 されるべきとの考え方に立脚し、個人を主体とし て当該権利が保障されるという規定形式を採用 しているのものであり、 …したがって、国内法としての直接的効力、しかも 法律に優位する効力を有する」と明快に判示。 @ 東京高等裁判所の刑事事件で無料通訳の援助を受ける権利に関す る自由権規約の国内法としての効力を認める平成5年2月3日決定 (東高刑時報11巻1号−12号11頁)、 A 諮問押捺拒否国賠事件での大阪高等裁判所平成6年10月3日判決 (判例時報1513号86頁)「B(自由権)規約はその内容に鑑みると、原則と して自動執行的性格を有し、国内での直接適用が可能であると解せられ るから、B規約に抵触する国内法はその効力が否定されることになる。」 として、自由権規約に違反する法令は効力が否定されることを明快に示 している。 「接見交通妨害事件」の平成9年11月25日高松高等裁判所判決(判例タイムズ977 号65頁)は 「規約人権委員会は…B規約14条1項における…の概念は、…との見解を示してい る」 「監獄法…の条項については右B規約14条1項の趣旨に則って解釈されなくてはな らない」 として国内法は自由権規約の趣旨に適合して解釈しなくてはならないこと、 その解釈にあたっては人権委員会の見解を基礎とすべきことが判旨されている。 大阪高等裁判所平成11年10月15日判決も 「憲法98条2条は、日本国が締結した条約及び確立され た国際法規の誠実な遵守をうたっているから、我が国に は条約を誠実に遵守する義務があることはいうまでもな いところ、条約は法律の上位規範であるから、条約を批 准した以上、国会において、国内法の内容が条約の内容 に適合するかどうかを見直し、既に制定された法律の規 定中に条約の内容に適合しない規定があるような場合に は、これらを改廃したり、新たな立法措置を講ずるなどし て、条約に違反する状態が生じないように是正すべき一 般的な義務があることは明らかである。」 と述べている(判例時報1718号30頁)。 最後に宣伝させて下さいませ(*^_^*) 障害者の介護保障訴訟とは何か!―支援を得て当たり前に生きるために [単行本] 藤岡 毅 (著), 長岡 健太郎 (著) 定価 1,680円 159ページ 出版社: 現代書館 (2013/12) ご清聴ありがとうございました。