障害年金の支給判定の地域格差の是正等に関する緊急アピール 2015年2月に「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会」(以下、「検討会」)の第1回会合が開催され、「等級判定のガイドライン」などは来年から実施の見込みです。この実施に合わせて「等級判定に用いる情報の充実に向けた対策について」の一環として診断書作成の医師むけに「障害年金の診断書(精神の障害用)記載要領」案も発表されています。 「検討会」のきっかけとなった2014年の「障害基礎年金の障害認定の地域差に関する調査」はきわめてずさんで、その調査にもとづいた検討課題が設定されました。しかも、問題が指摘されてきた現行の障害認定のシステムや障害認定基準を前提とし、その枠内での格差是正にすぎず、根本的解決には全く手を付けられていません。 これでは、障害認定の地域格差はなくならないばかりか、障害認定は低い水準に合わせてより厳しいものになると危惧しています。特に、医師向けの診断書の記載要領は、検討会での議論の内容を逸脱し、日常生活能力による障害の認定を「援助」や「支援」が「常時」必要なものに限定する意図が明確です。 障害者権利条約では、障害の社会モデルを取り入れ、社会環境によって障害は重くも軽くもなること、障害者の社会的不利は、障害者の機能や能力の障害だけが原因ではなく、障害者を排除する社会の仕組みが原因であるとしています。 しかし、「等級判定のガイドライン」はこうした考え方に反しており、医師向けの診断書の記載要領では、障害を疾病の帰結として捉える医学モデルの考え方にもとづき、稼得能力や労働能力から切り離された日常生活能力を、しかも日常生活動作能力とでもいうべきレベルで判定しようとしています。 このままでは、家族扶養から自立しようとする障害者や、就労した障害者は障害年金の対象者から除外されてしまう恐れがあります。日本精神神経学会など7団体でつくる「精神科七者懇談会」は、ガイドラインの実施により少なくとも障害基礎年金の受給者約79万人の1割程度が影響を受け、56,000人が1級から2級への等級落ち、23,000人が2級から3級に落とされ支給停止(無年金)になると推計しています。「等級判定のガイドライン」は障害者の願いである家族からの自立と経済的な自立という2つの自立を、障害年金制度が奪うことになりかねません。 当面次の要望事項の実施を求めます。 要望事項 1.格差を生み出す根源である制度間格差の是正、障害認定システム、障害認定基準について、障害者権利条約と障害者基本法に規定されている障害の社会モデルの視点からの再検討を求めます。なお、検討の際には障害者並びに障害関係団体の代表者を必ず加えてください。 2.ガイドラインの実施の延期と、再検討を求めます。 3.診断書作成医むけの診断書記載要領を含む「等級判定充実対策」の見直しを求めます。 4.障害年金申請書の交付拒否、窓口による受付拒否など行きすぎた窓口業務についてはただちに改善することを求めます。 5.生活保護基準以下となっている基礎年金額は、政府による平成26年財政検証によればマクロ経済スライドが実施されるとさらに30%程度下げられると予想されています。基礎年金額を障害者権利条約に謳われている相当な生活水準を享有する権利にもとづき引き上げることを求めます。 2015年12月15日    所得保障制度としての障害年金を考える学習会参加者一同