障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

25年12月11日更新

2025年「すべての人の社会」12月号

2025年「すべての人の社会」12月号

VOL.45-9 通巻NO.546

巻頭言 世界唯一の戦争被爆国・日本 「非核三原則」の見直しが許されるのか!


JD理事 白沢 仁


 

 混沌とした政治・社会状況の中で、自民党と日本維新の会の連立により、高市内閣が発足しました。憲政史上初の女性首相の言動とその支持率の高さが連日報道されています。高市首相は、所信表明演説で、「安保三文書」(2022年12月閣議決定)に明記された、防衛費「対GDP比2%水準」(5年間で43兆円確保)等を今年度中に前倒しで達成させ、来年中には「安保三文書」そのものを改定することを表明しました。改定の主要な内容が「非核三原則」の見直しにあることがこの間の国会論戦で明らかになりました。

 核兵器を「持たず」「作らず」「持ち込ませず」の「非核三原則」は、1967年12月の佐藤栄作元総理大臣(1974年ノーベル平和賞受賞)の表明以来、約60年間継承され、石破前総理はもちろん、歴代の総理大臣が、広島・長崎で毎年開催される原爆追悼式典で「非核三原則の堅持」を表明し続けています。

 今年は、広島と長崎に原子爆弾が投下されて80年目をむかえています。世界唯一の戦争被爆国・日本がこの被爆80年を機に、世界に何を発信すべきか。一瞬で20万人以上の尊い命を奪い、いまなお被爆に苦しむ人々の悲痛な訴えを真剣に受け止めるならば、「核兵器廃絶」「核兵器のない世界」の実現以外ないことは言うまでもありません。この長年の「ヒバクシャ」の訴えが国連・核兵器禁止条約の採択(2017年)、ICAN(アイキャン)(核兵器廃絶国際キャンペーン)のノーベル平和賞受賞(2017年)、そして日本被団協のノーベル平和賞受賞(2024年)など、国際的な「核兵器廃絶」の大きな流れを作り出しています。

 にもかかわらず、日本政府は、アメリカの「核の傘」に依存することに固執し、それゆえに核兵器禁止条約に対しても、いまだ批准どころか署名さえしていません。高市首相は、アメリカの「核の傘」「核抑止力」で守られている以上、「非核三原則の堅持」は矛盾していると強調し続けており、少なくとも核兵器を「持ち込ませず」の削除を企んでいます。

 なぜ、世界で唯一の戦争被爆国・日本が核兵器禁止条約の批准、「核兵器廃絶」の闘いの先頭に立てないのか、国民的な追求が今日ほど求められている時はありません。

 また、高市首相は、所信表明で、在任中の憲法「改正」への意欲も見せましたが、世界各地の紛争・戦争の惨禍や、身近な物価高騰による生活苦などと重ね合わせながら、真に国民一人一人の「暮らし」と「平和」を守ることを真剣に考え合う時ではないでしょうか。目先の「改善策」に惑わされず、現政権の思惑を見抜き、近い将来の解散・総選挙でのあらたな審判に備えることの必要性を痛感しています。

視点 「市民の目」を福祉現場に!          


JD副代表 石渡 和実



 福祉実践の場に「市民の目」を入れることの重要性が、意思決定支援の進展とともにますます注目されている。「本人中心」を核とする意思決定支援では、「最善の利益」を理由に支援者の価値観で代理決定するのではなく、「支援を尽くして本人が決定する」や、意思確認が難しい場合も生活歴や日々の様子などから「本人の意思を推定する」、などが当然の流れになりつつある。障害者権利条約の総括所見で指摘されたパターナリズムの排除とも言えよう。意思決定支援ガイドラインの作成などでも活躍する水島俊彦弁護士は、専門性ゆえの価値観や思い込みから脱することを、「支援者めがねをはずす」と称している。

 成年後見制度の実践では市民後見人の活躍も広まっている。親族や弁護士などの専門職とは異なり、「同じ地域に暮らす住人として、本人と同じ目線で考える寄り添い型の支援」をめざす。社会福祉協議会などが実施する養成講座を修了し、家庭裁判所の任命による「法的権限」をもって、親族間の争いなどが無い人を担当することが多い。本人のこれまでの生き方や価値観を尊重し、納得できる充実した日々を送れるよう福祉サービスや社会資源の利用をサポートする。地域のイベントや余暇活動にともに参加することもあり、後見人というだけでなく「同じ住民として安心を託せる存在」となりつつある。行政や社協のバックアップを受けながら本人支援を展開しているので、関係機関とのつながりを深め、ネットワークの構築や「地域共生社会の実現」にも寄与していると評価されている。

 2023年9月に食材費の過剰請求などが報道され、グループホーム支援のあり方が問われた「恵問題」を機に、厚生労働省は「地域連携推進会議」を位置付け、2025年度からは設置が義務化された。これは利用者や家族、地域住民、行政担当者などにより構成され、年に1回以上はメンバーが訪問し、事業者の報告を受け、入居者から要望や助言を聴く機会とされている。閉鎖的との指摘が多い入所施設やグループホームに、外から、特に「市民の目」を入れて地域との連携を強化し、居住の場における支援の質の改善をめざしている。

 筆者は、川崎市の連携型の苦情解決システム「第三者委員会」に20年以上関わっている。この委員会は社会福祉法第82条の苦情解決規定に基づいて設置され、2025年6月現在、市内の246事業所が加盟し、11人の第三者委員と38人の協力員が活動している。社会福祉法では、施設職員である苦情解決責任者・苦情受付担当者と外部の第三者委員を施設ごとに位置付けている。川崎市の第三者委員会は、入所・通所・成人・児童など、多様な障害支援に関わる事業所のネットワークであることが大きな意味をもっている。第三者委員は弁護士・社会福祉士・公認心理師・大学教員・元特別支援学校校長・元児童養護施設長など、異なる専門性を有し、協力員のアドバイザーでもある。協力員も福祉職員などもいるが、多くは一般市民で年齢もさまざまである。年3回の施設訪問を通し、多彩な立場が一堂に会して施設のあり方を議論する中で、権利擁護の視点をもった心強い市民、視野の広い専門職へと変わってきて、施設支援だけでなく地域のあり方を問うことになっている。

 「市民の目」を福祉現場に! そして、それらの実践が地域で横につながり、ネットワーク化されることが重要である。意思決定支援の拡がりと併せて、市民による権利擁護活動を、ぜひ地域変革につなげ、地域共生社会の実現へと進展させたい。

2025年11月の活動記録


障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会ニュース61




回想 参議院議員としての6年間を終えて

舩後 靖彦(前参議院議員)




「国連障害者権利委員・田門浩さんの話を聞く会」が盛況

長尾 康子(全国要約筆記問題研究会理事長)




世界情勢 障害とベトナム戦争の遺産 終結から50年を経て(1)

Nguyen Thi Lan Anh(コミュニティ活動センター(ACDC)創設者 / 所長・ベトナム障害者連合(VFD)副会長)




海外動向 アメリカ合衆国オレゴン州における聴覚障害のある性暴力被害者への
 民間団体による支援サービス

岩田 千亜紀(東洋大学福祉社会開発研究センター客員研究員)




連載 戦後80年・戦争と障害者(3)

「一番遅い疎開、一番遅い帰京」―― 一番長い学童疎開・肢体不自由児

林 雅行(ドキュメンタリー映画監督・作家)




連載 投票バリアフリー 第8回

NHK「みんなの選挙」⑦
取材からの学びを生かし発信していきたい

的場 恵理子(NHK大阪局コンテンツセンター第2部(情報取材)記者)




障害・文化・よもやま話

第53回 受賞のご挨拶 ―無意味なんかじゃない自分―

荒井 裕樹(二松学舎大学教授 / 障害者文化論研究者)




トピックス・インフォメーション


いんふぉめーしょん 

わかりやすい版「みんな、知っておこう! 障害者権利条約総括所見のポイント解説」




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