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〈公開討論会〉
転換期における障害者政策への取り組み


 JDでは、さる12月8日(火)、全社協・灘尾ホール(東京都千代田区)において、新10年推進フォーラム1998を開催し、関係者を含む約450名のみなさまにご参加いただきました。
 ここでは、政党代表者による公開討論会の様子をお知らせいたします。


シンポジスト 八代 英太(やしろえいた) 衆議院議員 自由民主党
堀利 利和(ほりとしかず) 参議院議員 民主党
桝屋 敬吾(ますやけいご) 衆議院議員 公明党
武山 百合子(たけやまゆりこ) 衆議院議員 自由党
瀬古 由起子 (せこゆきこ) 衆議院議員 日本共産党
福島 瑞穂 (ふくしまみずほ) 参議院議員 社会民主党
進行 大熊 由起子(おおくまゆきこ) 朝日新聞社論説委員
藤井 克徳(ふじいかつのり) JD常務理事

もくじ


はじめに

[藤井]
 本討論会のねらいは大きく2点あり、ひとつは、障害分野の問題について各政党の政策についてお聞かせいただくこと、2つめは、本討論会を契機に超党派で障害者問題を国会で前面に出してもらおう、ということです。そのねらいにそって、(1)実体法である3つの障害者福祉法の統合化について、その筋道をどう探っていくのか、(2)理念法である障害者基本法の改正について、(3)所得保障の問題、の3つの柱を立てました。
 今日はもう1人司会者として、朝日新聞社論説委員の大熊由紀子さんにお願いしました。
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各政党における障害者政策の方向性


[八代]
 自由民主党は与党ですから、あらゆる政策に責任をもたなければいけない立場にいます。かつての自民党は福祉にはそっぽを向いていたという時代もあったやに聞いていますが、今や社会部会を中心として諸々の特別委員会を党内に設置しており、私は今、障害者に関する特別委員会の委員長を再び務めることになりました。
 かつて、障害者基本法が誕生する前は、精神障害者は心身障害者対策基本法には入っていませんでした。社会生活上のいろいろな障壁を乗り超えていくために頑張っているみなさんすべてを包含する意味において、身体障害、知的障害、そして精神障害、その他日常生活における障害をもつ人すべてがその対象になるという思いをもって、障害者基本法を創りあげました。これは、ADA法(障害を持つアメリカ人法)に比べれば、孫的な存在、いや、曾孫にも値しないといわれていますが、それでも、障害者基本法をひとつの理念の出発点として、そこからどう自立に向っていくか、あるいは「完全参加と平等」に向う社会をどう構築していくか、その第一歩にしなければならないという思いで創られたのです。
[堀]
 現在の民主党は4月にできたばかりで、障害者政策を明確に打ち出すことはできない状況です。ただ、この問題は党として取り組むべき大きな課題と位置づけ、障害者政策のプロジェクトを作り、私は事務局長を務めています。私は、1993年から1995年の間に、21世紀に向けての障害者政策に関わる基本的な枠組みが、ある意味でできたと思っています。1993年には障害者基本法の制定、1994年には、私が勝手にいっていますが、国における福祉のまちづくり元年、1995年には障害者プラン策定、1996年7月からは組織改革をした障害保健福祉部がスタートしています。さて中身はどうかといいますと、まだ不十分であることはいうまでもありません。しかし、この基本的な枠組みを踏まえて1999年から2002年は、障害者政策・法制関係を変えていく時です。これをきちんとやらないと、自立と社会参加を手に入れる21世紀は来ないと思います。
 また現在、社会福祉基礎構造改革が進められており、大きな転換期をむかえています。障害者関係についても厚生省は、戦後続いてきた措置制度から利用契約制度に変えていこうとしています。そこで、障害者政策の方向性を党として慎重に検討している最中ですが、2つに問題を感じています。一つは、保険方式でない時に権利、義務が保障されない障害者の利用契約制度の場合、はたして国の責任、公的責任がどうなるのか。もう一つは、そこから発生する個人負担の問題がどうなるのか。この点を見定めながら今後の方向性を考えていきたいと思います。
[桝屋]
 ここでは、公明党として切実に考えている問題だけお伝えしておきたいと思います。小渕政権になって、緊急経済対策という大きな予算が動いていますが、よくよく考えてみますと、1998年度の当初予算は大変な緊縮予算でした。財政構造改革ということから7000億円がカットされたわけです。なおかつ一律にカットされました。
 公明党としてはこれからの時代、守るべき福祉、さらに拡充しなければならない福祉をしっかり見定めなければならないと考えています。それは中央で決めるのではなく、地域の中で考えていかなければならない。それをきちんと担保できる国の制度にしなければならないと思います。
[武山]
 今年1月から自由党の厚生委員会、また国民生活部会に参加することができました。私は20年ほどアメリカで生活してきましたが、今、日本の福祉政策として考えていることが、欧米の先進諸国ではとっくに行われていました。私は3年前に、アメリカで交通事故に遭い、足が動かなくなりました。今も階段は手すりにつかまらなければ上り下りできない状態です。帰国して、日本の障害者施策が大変遅れていることを実感しました。先進諸国からみると日本は大変遅れているという認識を国民全体、とくに政治家、行政がもたなければいけないと痛感しています。
[瀬古]
 私は精神病院で働く中で、また、重度の障害がある子どもたちといる中で、どんなに重い障害をもっていても人間らしく生きる権利があるのだということを痛感してきました。この間、どんどん福祉が削られてきていますが、その極めつけは社会福祉基礎構造改革だと思います。措置制度という国や地方自治体が基本的責任をもつ義務的なものから、利用契約制度に変えるというのです。国や自治体は責任を放棄して、最終的にはお金をもたない弱い人たちは福祉制度から放り出されるという流れが、作られつつあると思います。その一方では、某銀行に60兆円という莫大な税金を投入するわけです。ゼネコンには国、地方あわせて50兆円という財源が注ぎ込まれていますが、社会保障はわずか20兆円です。そんな国は世界のどこにもありません。こういう逆さまな政治を、ぜひみなさんとともに変えていきたいと思います。
[福島]
 初めに3点申しあげたいと思います。一つめは、私自身国会議員になったのは、法律や制度を変えることで社会を変えたい、社会は変わるのだという確信をみんなでもちたいということがあります。二つめは、障害のある人にとって暮らしやすい社会は、すべての人にとって暮らしやすい社会であることです。ですから、障害者問題をメインストリームへ、つまり「すべての人にとっての障害者問題」として広げたいと思います。三つめには人権の問題です。私は、人権の視点を福祉分野でもっといいたい。世界人権宣言はその第一条で「すべての人は個人の尊厳と人権をもつ」と宣言しています。あらゆる人、どな年代の人にも自己実現の権利があるというのが人権の考え方で、これを全面に入れた総合的施策をやりたいと思います。
 社会民主党(社民党)は今年10月、党の基本政策を立案する社会民主主義政策センターと福祉プロジェクトチームを相次いで発足させました。私はそのメンバーです。障害者の自立と社会参加、完全参加と平等を進めるノーマライゼーション、共生の理念にたって、とくに重要なことは、障害のある方々と一緒に政策を作ることです。もう一つは権利救済、つまりオンブズマン制度をきちんと作ることが必要と思います。理念はあっても実際が進まないというギャップを、さまざまな法制でどうしていくのか、そういうことを政策として実現していきたいと思います。
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障害者福祉3法の統合化について


[藤井]
 いよいよ各論に入っていきます。一つめの柱は、障害者福祉の実体法である三法(身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法、精神保健福祉法)の統合化についてです。障害者基本法という、全省庁にまたがった法律がありますが、福祉に関する法律は障害種別ごとに3本に分かれており、これを統合できないかということです。
[福島]
 総合的施策をもった法律が必要で、社民党もその方向で議論しています。障害種別や程度にかかわらず、人間としての尊厳を保ち、その人らしい生活を送るために必要なサービスが、国や自治体の責務として提供されることが必要で、簡素化や権利擁護を盛り込んだ総合的法制、実効性のある法律を作れば、それは21世紀を切り拓いていくだろうと思います。
[瀬古]
 基本的なスタンスとしては、総合的な福祉法は重要だと思います。とくに小さい市町村では「この障害だけの施設」とはならないのです。JDの試案なども参考に、できれば超党派で、国会でも共同でやれるような、そういう論議を進めていきたいと思います。
[武山]
 基本的には総合的な法律は必要だと思います。ただし、党としては議論が十分煮詰まっていません。
[桝屋]
 3法を統合することについては、公明党としてもその方向性を検討していますが、問題がいくつかあります。1つめは、基盤整備については、老人福祉も含めて考える必要があるということです。2つめは、障害者関係3審議会合同企画分科会の中間報告では「サービスの一元化」としていますが、現場からは「難しい」という声を聞くのも確かです。3つめは、障害者プランも含めて、地域でどういう仕組みを作るかという視点です。市町村だけで取り組むのではなく、広域の保健福祉圏域という議論もしなければならないと思います。
 しかし、全国3300の市町村の実態をみますと、今介護保険だけで大混乱です。ここはどう時系列的に仕掛けていくのか、みなさんのご意見をいただきながら、流れをしっかり考えていきたいと思います。
[堀]
 民主党として結論は出していませんが、障害保健福祉部創設の流れからすれば、3法を統合するということは、ある意味で自然の流れとみています。ただし、それにはいくつかのハードルを超えなければいけないと思います。1つめは、1990年に福祉関係8法を改正し、高齢者福祉に関しては市町村に権限移譲されました。身体障害もそうなりましたが、知的障害と精神障害は都道府県レベルです。したがって、一つの法律にするには、市町村に一本化しなければいけない。2つめは、精神障害者の問題です。保健医療と福祉を分離をしなければ総合福祉法には踏み込めないと思っています。その場合、どう区分できるのかを整理しなくてはなりません。3つめには、障害者プランについて、精神障害者福祉施策があまりにも不十分なことです。ここの底上げをしていく中で、総合福祉法というものが具体的にテーブルにあがってくると思います。
[八代]
 私は、あまり法律にこだわるべきではないと考えています。また、法律にしばられるような関係にあるべきではない。本来、憲法をみれば、私たちは平等社会であることはしごく当然です。しかし、それができないために、諸々の障害者に関係する法律がその上に網となってかかってくるわけですが、本来は障害者基本法もなくなる日を期待しているのです。
 12月9日を「障害者の日」と制定した時も、この日がいつなくなるかという夢をもって、あえてそこに組み込みました。「障害者の日」がなくなる時こそ万人平等の社会であると考えています。先ほど、措置制度は廃止するなというご意見もありましたが、措置などということは1日も早く廃止したほうがいいと思うのです。
 そういう意味では、施設もなるべくいらない時代にしなければいけない。それよりも、社会全体がどうやってバリアを取り除くか。たとえば私は、交通バリアフリー化議員連盟というものを作りました。たとえば何千人の乗降者がいれば何年間ですべての人が使える駅舎にしなければならないというものを議員立法化していこう、ということもやっています。その使い勝手をよくするために基本法があり、細分化された中にそれぞれ3法がある。今の基本法を変えていくのなら、3法を統合するというような言葉で振り回されたくないような気がします。
[大熊]
 藤井さんからの問いかけは、知的障害、精神障害、身体障害の3法の総合化についてでしたが、あわせて基本法の改正についてもお話がありました。この議論の中で、基盤が整ってから法改正をすべきということと、逆に、法律の枠組みを作ることによって先に進めようという2つの立場がはっきりしてきたかと思います。他のパネラーの話を聞き、何かコメントがありましたらどうぞ。
[福島]
 どんな総合的な法律がいいのかを議論する中で、基盤整備の問題も出てくると思っています。今度、政府が提出する男女共同参画社会基本法の中には、たとえばポジティブアクションは性差別ではないという趣旨の条文が入るといわれています。同じことは障害者の問題にも明らかです。ポジティブアクションとは、「積極的差別是正措置」といっていいかと思います。雇用の面で、たとえば女性差別、人種差別、障害者差別をするような企業には公共工事は発注しないとしているアメリカの州もありますし、男女平等行動計画などをきちんと義務づけ、報告書を出し、点検するというようなこともあります。さまざまな国がこのポジティブアクションの制度をとっています。
 たとえば私には車いすの友人がいますが、個々のハンディキャップの内容によって分断されている感じがします。3法を単につなげるのではなく、総合的な施策、しかも自治体もしばるような、当事者も参加できるような、総合的な施策は必要だと思います。
[瀬古]
 先ほど、措置制度はなくさなければならないといわれましたが、国がきちんと責任をもつ制度として、一定の基準を作ってきたものから、国民自身が責任を負うというやり方にしていくということは、まさに根本的な転換で、ここに私は大きな問題があると思います。大手銀行やゼネコンのためにはお金は出すけれども、福祉予算はストップしたままです。これを改善するなら、財政構造改革法も廃止するというくらい、自民党には決意を込めてやっていただきたいと思います。
[八代]
 1998年度の諸々の予算は、厚生省の福祉関係予算以外は全部削減です。しかし、障害者プランという2002年までの7カ年戦略の数値目標がありますから、トータル的には3・6%でしたか、この伸びを福祉関係予算は獲得しました。今度の補正予算においても約380億円、そして小規模作業所など、福祉のインフラ整備なども行うわけです。
 それから、措置制度についてですが、今までは施設福祉が重点でしたが、なるべく地域社会の中で生活していけるようにという在宅福祉が世界の流れです。そういう意味では、今までの福祉3法なども見直し、それによってコンシューマー制度を作り、しっかり第3者機関がチェックする。つまり選択制度へという構造改革であるとご理解いただきたい。どれだけ経済が下り坂になっても、障害者の問題は坂道をのぼるような姿勢をもっていきたいと考えています。
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障害者基本法の改正について


[藤井]
 次のテーマに移ります。障害者基本法は、今から5年前に心身障害児者対策基本法が改正された理念法です。しかも全省庁にまたがった法律であり、障害分野の憲法といってもいいものです。ここで論じるポイントのひとつは、市町村障害者計画の策定が進んでいないことです。策定率は33.3%。一方、高齢者のゴールドプランは3年目にして100%できあがりました。その違いは、老人福祉法には老人保健福祉計画策定が義務づけられています。ところが、障害者基本法第7条では、国は義務づけられていますが、都道府県や市町村は「策定するよう務めなければならない」という努力規定で終わっています。この点を含め、お願いします。
[堀]
 障害者基本法制定のときも、いずれ見直しが必要だと思っていました。5年を目途に変えなければいけないと思っていることを整理しますと、3つあります。1つめは、7条にある市町村レベルでの計画策定について、努力規定から義務規定にすることです。自治省は真っ向から反対していますが、政治の力でなんとかもっていかなければいけないと思っています。2つめは、措置から利用契約にすることです。障害者基本法第3条に「個人の尊厳に基づいて処遇を受ける権利を要する」とありますが、きわめて抽象的です。雇用のレベル、あるいは生活のレベルで、それを実体法として策定するひとつのきっかけにするような、もう少し具体的な理念規定を基本法に条文として入れるべきだと思います。3つめは、総理府の障害者施策推進本部を力強いものにしなければいけないことです。その意味で、その部分を書いている27条を変えなければいけないと思っています。
[武山]
 基本的には理念の部分を、今お話しされたようにしっかりと入れることに賛成です。今、明治以来100年続いた日本の中央集権国家に構造的、制度的な歪みが一気に出てきています。ここで大改革をするときであろうと思います。ですから、どの法律が一番実現性があるのかという部分で比重をおくべきだと思います。
[瀬古]
 障害者基本法は議員立法ですから、議員の論議の中で新たな改善をできると思っています。とくに市町村障害者計画が進まないのは、財源措置がきちんとないからです。さらに、今地方行革でどんどん職員が減らされています。地方自治体では、福祉分野を軒並み削るという状態です。八代さんは、一定の社会福祉、障害者の予算は削っていないといいますが、財政構造改革法が出て、その伸びがダウンしてしまい回復していません。国の予算も含めて、地方自治体も網羅できるような、そういう取り組みの仕方ができるような措置がとられなければならないと思っています。
[福島]
 老人保健福祉計画は策定が義務づけられている、だから100%になるわけですね。ですから、障害者基本法の改正の中で計画策定の義務づけを自治体、都道府県、市町村等について行うようにするということは、獲得目標の第1としてはっきりあると思います。障害の発生予防に関する規定の削除、具体的な権利と差別禁止規定を明記すること、さきほどいいました自治体における障害者計画の具体的策定の義務づけ、自治体でのオンブズ制度の創設などを考えています。
[桝屋]
 先ほど、老人保健福祉計画との比較でお話がありましたが、老人保健福祉計画は紋切り型で、参酌すべき標準というようなものを国が示し、どこへいっても同じ、金太郎飴のような計画になっています。それは、高齢者福祉をナショナルミニマムとして全国3,300の市町村で展開したいということがあれば、あのような形にならざるをえないと思います。私は、果して障害者の問題はそんなやり方でいいのかという気持ちがあります。逆に、この5年間で5割くらいの市町村が計画を策定したということは、大きな前進だと思っています。たとえば障害児の地域療育システム、あるいは市町村の障害者の生活支援事業、精神障害者の地域生活支援事業などは、いずれも仕掛けは違いますし、しかも地域によって特色が出ています。その地域の障害者の方々の生活の支援ができる仕組みを、地域が知恵を出して作らなければいけないと思います。その意味では、これを強制法で作ってしまうと、おそらく厚生省から参酌すべき指針というようなものが出て、横並びの計画ができてしまうのではないかと心配です。障害者の施策はもっと丁寧に作りあげる必要もあるのではないでしょうか。
[藤井]
 障害者基本法については、八代さんは生みの親のひとりとして頑張ってこられました。改正問題についてはどうですか。
[八代]
 もちろんそういう時期にきていると思います。たとえばADAのように拘束力を設けるかどうかということも議論になっていくでしょうし、あるいは数値目標を入れて、各行政機関にその責任を課すというやり方もあるでしょう。たとえば移動や情報化の問題をどう盛り込んでいくのかなど、個別事項もそれぞれあると思います。そのために羅列主義になっていますが、その中に私たちの仕掛けみたいなものがあります。たとえば教育の問題で「環境の整備」という一文を入れています。文部省は、養護学校などの環境をよくしよう、というような感覚でした。私たちが考えていたのは、統合に向けての環境整備ということです。議員と行政のとり方の違いをわかりつつも、あえて次への戦略のために「環境」という言葉を入れたのです。
 それから、市町村障害者計画の策定義務化の問題ですが、あえて努力義務にしているのは、老人福祉と障害者福祉は違うということからです。高齢者は、まさに人生の最後の一時ですから、それには市町村が責任をもって、人口1000人の市町村も何10万人の市町村も、当然のこととしてやるべきですが、障害者の問題は、いかに障害者運動として推進できるのかということだと思うのです。ですから私は、地域格差があってもいいと思います。自分たちの問題を自分たちで考えながら、市町村障害者計画を作らせる。それが障害者運動のあるべき姿だと思いますし、そこまではしっかり情熱をもつべきだと思うのです。そのために「努力義務」になっているということを、私たちの運動の認識としてもっていただければと思います。
[藤井]
 おっしゃるとおり、権利や障害者福祉は獲得するものだということに、異存はありません。しかし、その問題と障害者計画の義務規定問題は別だと思います。原案は義務だったと思います。これが自治省の猛烈な反対でダメになったという経緯があります。
[福島]
 義務規定だとしても、中身を自治体ごとに反映させる、あるいは運動の力でもっとよいものにするということは十分可能で、義務づけることと、中身が金太郎アメになってしまうということは別だと思います。1つだけ、小さな情報をいいますと、参議院には共生社会に関する調査会というものが新しくできました。男女平等、その中でも暴力について取り扱おうということになっていますが、女性差別のテーマが終われば、たとえば今日来られた方が「調査会で障害者の問題を取り上げてほしい」ということで、立法の場での発言は出てくるのではないかと思います。
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所得保障問題について


[大熊]
 3本めの柱、所得保障について話を移したいと思います。措置から契約へといっても、所得がなければ選択できないといわれ、所得保障は一番の要だと思います。
[八代]
 福祉的な視点にたつ所得保障のあり方や年金制度の問題など、多岐にわたっているかと思います。党内において年金調査特別委員会で藤本会長の私案を出しました。2004年までは、引き上げなども凍結していくということですが、いずれは現在3分の1の国庫負担を2分の1にするというやり方で、将来の年金の安定的な財源を確保するためにひとつの試案が提出されたところです。私が藤本私案の中で申しあげたのは、国庫負担が2分の1になるというところをきっかけとして、無年金者をなくすということです。現在、無年金者は全体では70〜80万人、無年金障害者は7,000〜8,000人ということです。こういう問題も含めて所得保障を考えていくことは、大変重要なテーマとして位置づけています。
[堀]
 まずは現行の年金制度に基づく無年金障害者の問題がすぐ頭に浮かびます。党としては最終決定に至っていませんが、年金制度改革小委員会というものがあり、近い将来、基礎年金は税方式でやったらどうかという議論をしています。基礎年金が税方式になれば、当然、無年金そのものが解決されます。私はそれを望んでいます。もう1つ、八代さんから国庫負担2分の1問題が出ましたが、今、障害基礎年金1級ですと、10分の6が国庫負担です。これが、3分の1から2分の1に国庫負担が引き上げられるということは、10分の8が国庫負担になります。厚生省は、社会保険である限り国庫負担は2分の1が限度、それ以上超えるものではないといっています。10分の8が国庫負担となれば、これはもう事実上保険ではありませんね。そうなれば当然、無年金障害者はそこで解決すべきだと、現行制度に限っていえばそのように思います。
[桝屋]
 所得保障の問題は障害者プランからずっと引きずってきていることで、今回の年金改革の中で、政府は結論をきちんと出すべきだと強く要請していきたいと思っています。ただ、今回の年金改革は高齢者の年金をどうするかという問題しかないわけです。障害者の年金、所得保障の問題はこれとは別に議論をしなければならないだろうと思います。内部障害者の年金や等級のあり方、認定基準、認定額・水準の問題など、所得保障の問題はきちんと政策日程にあげて取り組んでもらいたいと思っています。
[武山]
 年金については、消費税を福祉目的税へと強く主張しています。自由党の所得保障に対する考え方は、障害者の生活をより積極的に支援すべきというのが基本的な考え方です。また、構造的問題として現在の障害年金、生活保護、各種の手当制度は改正のたびに複雑になり、わかりにくくなっています。無年金障害者問題など制度上の問題もあり、わかりやすい障害者の生活支援をきちんとすべきだと考えています。
[瀬古]
 障害者であっても高齢者であっても、きちんと生活できるような年金にすることが国の責任だと思っています。年金制度はどんどん改悪されていくわけですが、この問題についても国民的な運動を大きくしていかなければなりません。それでは将来財源をどうするかというと、日本は世界に類を見ない年金の積立金があります。これを計画的に取り崩すことです。そして、無駄遣いをなくし、年金や社会保障の場にお金を投入していくべきだと思っています。福祉目的税という論議もありますが、これは将来、福祉を充実するなら消費税をあげていいかという問題になっていきかねません。現在20兆円の社会保障だけでも、消費税で徴収するとすれば、その税率は8%になってしまいます。国がきちんと責任をもつという立場から、福祉目的税は問題だと思っています。
[福島]
 ひとつは、雇用の拡大をいかに進めるかということを考えています。たとえば、パソコンなどを使って自宅で就労するなど、さまざまな自立支援をするグループも増えています。そういうことに公共職業訓練の多様化ということが必要になってくると思います。それから、NPO法が成立しましたから、これからは企業や社会福祉法人だけでなく、自立生活センターなど当事者が中心となって活動しているNPOの活動の中で就労支援などができないかということです。もう一つは、重度障害者のダブルカウントや最低賃金法の適用除外など、現行法の見直しが必要だと考えています。それから、社民党は年金改革プロジェクトを作っています。基礎年金国庫負担2分の1、将来的には基礎年金については税金で負担し、定住外国人や障害者も含めた無年金者救済策の早期確立、とにかく暮らすことのできる障害年金を実現しようということを柱としてあげています。
[藤井]
 所得保障問題は、雇用や労働保障との連動、あるいは所得保障を決める場合の障害認定の問題など、いろいろなことが絡んできます。もう少し問題を整理してみたいと思います。ひとつは無年金問題ですが、今制度問題といわれましたが、政治決着でなければ難しいといわれます。もうひとつは、無年金問題とは別に実際の所得保障の金額についてです。現在、障害基礎年金には1級と2級があります。1級は約8万3,000円、2級は約6万5,000円です。高齢者と違って資産形成がない障害者はこれだけです。この引き上げをどうするのか。JDでは、最低生活保護並みということを主張してきているのですが、いかがですか。
[桝屋]
 額についてまではまだ検討していませんが、今から介護保険報酬の議論が全国ではじまります。そういうことも横目でにらみながら具体的に検討していきたいと思っています。
[堀]
 この問題は議論していません。個人的には多ければ多いほうがいいのですが(笑)。こういう話をすると、後ろ向きに聞こえてしまい困るのですが、障害基礎年金は、ある程度働いて収入のある人も8万3,000円、働く機会がまったく奪われている重度障害者も8万3,000円です。このあたりをそのままにして10数万円という額に上げていくことは、現実的なありようも含めて議論すべきと思います。
[藤井]
 日本の障害者施策が変わったなと実感するのは、たぶんこの分野だと思います。経済基盤はすべての生活の基本です。この部分での閉塞感、一般国民との不公平感は大きいと思うのです。ぜひ国会で真剣に議論していただきたい点です。
[八代]
 基礎年金は、昔は福祉手当でした。決して満足な額ではありません。しかし、障害をもつ私たちにとっては大きな引き上げになりました。
たしかに堀さんがおっしゃったように、多ければ多いにこしたことはないのですが、経済も低迷しています。経済の切れ目が福祉の切れ目になってはいけないわけですから、いい経済社会を作るということを第一義に考えなければなりません。しかし、低水準におかれている障害者の所得保障のことも真剣に考えていかなければなりませんが、税金は上げるな、しかし年金は上げろという論法は成り立たないものです。北欧などは国民負担が八割近いところがありますし、スウェーデンの消費税は25%です。そういうふうに国民の理解が得られるのなら、年金も所得保障も万般行き渡るものになることは間違いありません。したがって、財源の確保ということが根っこにあるのだということをご理解いただきたいと思います。
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まとめ


[大熊]
 今日のシンポジウムはきわめてバラエティーに富んだ人材がかみあって、歴史のタペストリーが織られたような感じがしました。
 さらに画期的だと思ったのは、議員立法である障害者基本法について、この5年を節目に見直し、改正しようという大筋で一致したことです。私としては、市町村への障害者プラン策定の義務づけはぜひ盛り込んでいただきたいと思っています。全国3,300の市町村のうち、たぶん5分の1くらいは回ったと思いますが、市町村の役人は、義務化されないと動き出さない方がほとんどだからです。
 福祉3法を総合化するかどうかについては意見が分かれました。たとえばデンマーク、スウェーデンでは、70年代から一つの支援法で運営されています。そういう一つの大きなネットの中で受け止めるという仕掛けを次のステップとして準備していただきたいと思います。
 ノーマライゼーションという考え方からみると、日本の障害をもった人、病気の人たちのおかれている状況は、まさにアブノーマライゼーションです。幕張で世界の精神保健大会があったとき、諸外国の人たちは、日本の精神病院入院患者数を聞いて、通訳が桁を間違えたのではないかと思ったそうです。また先日、知的障害関係の徳島大会に来られたニーリエさんが、日本の平均的な施設、むしろリーダーとなるべき施設を見て、「スウェーデンの40年前の状況から止まってしまったようだ。たぶんカナダやアメリカの30年前の姿だろう」とおっしゃっていました。そのようなアブノーマルな状態をまともなものにするのが、社会福祉基礎構造改革であるはずなのに、その前提になる所得保障問題は知らない、というようなものに流れる恐れがあると思います。
 ここで今日の議員のみなさんの力強い発言に応えるように、障害をもっているみなさん、それを支援するみなさんで、もう一度原点にかえって、今の大事な時期を変えていきたいと、私も含めて思います。
[藤井]
 明日は17回目の「障害者の日」、法定化されてからは6回目です。国際連合がその決議でかつてこういっていました。「一部の構成員を締め出す社会は脆くて弱い社会である」と。つまり、障害者を締め出すような社会は脆くて弱いということです。障害をもったけれども、日本に生まれてよかった、あるいはこの地域に生まれてよかったということが大事なポイントではないかと思います。とりわけ、今日参加していただいた方々は障害者福祉関係のエースでもあり、超党派で頑張っていただきたいと思っています。本日はありがとうございました。


※この特集(公開討論会)は、収録したテープをもとに事務局で編集したものです。

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