日本障害者協議会(社会支援雇用研究会)  「提言(案)」の概要                                1. 社会支援雇用研究会の設置の経緯 2007年8月ILO提訴 提訴の主なポイント:「福祉的就労に従事する障害者の状況は、働く障害者に一般労働者と均等な機会および待遇の確保を求めるILO第159号条約などに違反していること。」 2009年3月 ILO審査委員会の審査結果公表 「当委員会は、条約の目的である障害者の社会的経済的統合という観点から、また障害者による貢献を十分に認識するという目的のため、授産施設における障害者が行う作業を、妥当な範囲で、労働法の範囲内に収めることは極めて重要であろうと思われる、と結論する。」 「(ILO)理事会は、条約勧告適用専門家委員会に、職業リハビリテーションおよび雇用(障害者)に関する条約(第159号、1983年)の適用に関して提起された問題に対する調査のフォローアップを委ねること。」 (参考)「障害者の職業リハビリテーションに関する勧告」(第99号勧告、1955年) V 障害者による職業リハビリテーションサービスの利用を促進する方法 21(b)障害者に対して適当かつ十分な経済上の援助を与えること。 22(2)経済上の援助は、無料の職業リハビリテーションサービスの提供、生活費の支給など。 VIII 保護雇用((注)日本の障害者総合支援法に基づく、就労移行支援事業や就労継続支援A・B型事業なども、国際的には、この範疇に入る。)  32(1)権限のある機関は、適宜民間団体と協力して、労働市場における通常の競争に耐えられない障害者のため、保護された状態の下で行われる訓練および雇用のためのサービスを設け、かつ、発展させる措置をとるべきである。  35 賃金及び雇用条件に関する法規が労働者に対して一般的に適用されている場合には、その法規は、保護雇用の下にある障害者にも適用すべきである。 (注)国連障害者権利委員会に提出される予定の障害者権利条約実施状況にかかる第1回日本政府報告案では、第26条「リハビリテーション」の項目で、職業リハビリテーションサービスについて言及されているのは、障害者雇用促進法等に基づいて提供されるものだけである。国際的には、職業リハビリテーションサービスの範疇に入る、障害者総合支援法に基づく、就労移行支援事業や就労継続支援A・B型事業については、障害福祉サービスとして、第28条「相当な生活水準及び社会的な保障」の項目で言及されているだけである。  職業リハビリテーションサービスについて国内でこのような整理になっている根拠は、「障害者総合支援法第2条(市町村等の責務)1.・・・公共職業安定所その他の職業リハビリテーション(障害者雇用促進法第2条第7号に規定する職業リハビリテーションをいう。)の措置を実施する機関」とされているからである。  同様の理由で、障害者権利条約第27条「労働及び雇用」の項目についても、日本政府報告案で言及されているのは、障害者雇用促進法に基づく障害者雇用施策関連状況のみで、障害者総合支援法に基づく就労継続支援A・B型事業等については、まったく触れられていない。 2008年JDの研究会として設置 2010年1月 内閣府障がい者制度改革推進会議の設置 2010年4月 推進会議総合福祉部会の設置 2011年8月 障害者基本法の改正 2011年8月 総合福祉部会骨格提言のとりまとめ 2012年〜2014年三菱財団助成により就労継続支援B型事業所(セルプ協・きょうされん・ゼンコロ)調査の実施(「就労継続支援B型事業所などへのアンケート・ヒアリング調査報告書―社会支援雇用制度の構築に向けて―」、2014年9月) 2013年4月 障害者総合支援法施行 2013年6月 障害者差別解消法の制定および障害者雇用促進法の改正(いずれも施行は、2016年4月1日) 2014年1月 障害者権利条約批准 2015年 総合支援法施行3年後の見直しに向けて検討中(社会保障審議会障害者部会) 2015年8月「障害者の働く権利を確立するための社会支援雇用創設に向けての提言(案)」のとりまとめ(以下、「提言案」) 2. 社会支援雇用研究会の目的  「障害者の一般就労および福祉的就労のあり方を問い直し、ディーセントワークを実現するための新たな仕組みとして「社会支援雇用制度」について具体的な提言をとりまとめること。 3. 提言案の構成 提言案は、(1)要約版(4頁)、(2)提言案(15頁)および(3)資料編(42頁)から構成。             「提言案」の構成 はじめに(1頁) 第1章「なぜ社会支援雇用制度が必要か」(2頁〜6頁) 1.統計資料から見た実態 2.(B型事業所)調査結果から見た実態 3.最低賃金減額特例措置 4.権利条約と障害者の労働 5.ILO第159号条約違反提訴の推移 6.国内外の実態から見えてくる社会支援雇用制度の必要性  福祉的就労と一般就労の問題解決には、福祉施策と労働施策に分断されている現状を改め、福祉的就労か一般就労かを問わず、働く場の環境整備と人的支援および合理的配慮の提供、生計が立てられる所得の確保や生活支援など、障害のない人との格差をうめる仕組みの整備が必要→本提言は、福祉施策と労働施策の二元モデルと福祉的就労の限界をのりこえるための新たな仕組みについて提案するもの。 第2章「社会支援雇用制度とは」(7頁〜13頁) 1.社会支援雇用制度の概要 「社会支援雇用とは、何らかの障害があるために所与の状態のままでは、本人の希望、適性、ニーズなどにあった仕事に就くことが困難な人びとが、必要な支援を十分受けながら働く機会と生計の維持に見合う所得を得ることにより、障害のない人と同等の、人としての尊厳にふさわしい働く権利を享有することを目的とした制度」である。 2.社会支援雇用制度を実現するための法的な基盤づくり 社会支援雇用の制度化は、現行の障害者雇用促進法および障害者総合支援法の枠組みによっては実現せず、働くことを支える仕組みを包括的に規定する労働法としての「障害者就労支援法」(仮称)といった新たな法整備が必要。 3.社会支援雇用制度の適用範囲と対象者 社会支援雇用制度の対象者は、将来的には障害者以外にも広げていく必要があるが、まずは障害のある人に焦点化することが、この制度化にとって早道と考える。 4.社会支援雇用制度の具体的な内容 (1)人的支援・アクセシビリティ支援及び合理的配慮の提供 (2)所得保障  障害者権利条約第27条では、障害のある人が「自由に選択し又は承諾する労働によって生計を立て」得ることを権利として明記している。しかし、現実には生計を維持しうるだけの稼働収入が得られない場合もあることから、不足分について何らかの形で公的に補う措置の制度化が必要。その制度化に当たっては、現行の障害者所得保障制度(障害基礎年金等)との調整や国民的な理解の下での新たな財源の確保も含む、検討が必要である。 (注)国連障害者権利委員会は、障害者について「最低賃金減額特例措置」を設けている国に対して、最賃の適用から除外されている障害者の生活保障をするため、賃金補填制度を導入するよう勧告している。 5.社会支援雇用事業所の整備 (1)社会支援雇用事業所の概要とその対象者 社会支援雇用事業所は、社会支援雇用制度の対象となる障害のある人のうち、一般労働市場での労働が困難な人に対して、必要な人的支援や所得保障など、個々のニーズに応じた支援を提供することにより、一般労働者と同様、労働法が適用される事業所で、ディーセントワークの実現を意図したもの。 (2)一定レベル以上の賃金を支払うための仕事の確保と経営努力 (3)障害のある人の経営への参加 (4)障害者雇用にかかる企業への支援 6.働くための総合的な相談支援窓口(就労相談・調整センター)の設置  従来の相談支援機関等を改組あるいは新たな機能を付加することで、就労支援も含む、労働施策と福祉施策を一体的に展開できる包括的な相談支援窓口である、就労相談・調整センターを市区町村に設置する。 第3章「社会支援雇用制度実現に向けての基盤整備(14頁〜15頁) 1.障害者の就業や生活の正確な実態把握 2.縦割り行政組織の変革―福祉と労働の一体化をめざして福祉施策と労働施策の統合 3.障害者の多様なニーズにこたえるデイアクティビティセンターの創設 デイアクティビティセンターは、生計を立てるための収入の確保を主たる目的とした働き方を必ずしも希望しない、あるいはそれが現実的には困難な障害者に対して、作業活動を含む、多様なニーズに応じた日中活動や社会参加の場の提供を目的としたもの。 おわりに(15頁) 「本提言は、福祉的就労のあり方を抜本的に見直し、障害のある人の労働の権利を確立していくための将来ビジョンであり、その実現に向けては、さらに検討すべき課題が少なからず残されている。今後、関係団体や関係者と議論を重ねることで本提言の完成度を高めていくこととする。」 【残された課題】 1. 障害者権利条約との関連 ○国連人権高等弁務官事務局の見解 「公正かつ良好な労働条件の享有についての権利は、一般労働市場で働いているか、代替的な雇用形態(保護雇用ワークショップ等)の下で働いているかにかかわらず、障害のあるすべての労働者に差別なしに適用される。」 ○国連障害者権利委員会の勧告  一般労働市場から分離された保護的な環境にあるワークショップの廃止→社会支援雇用事業所のあり方が問われる。 ○環境整備、合理的配慮と個別支援との関連 (参考)権利条約第24条「教育」 「2(e)学問的及び教育的な発達を最大にする環境において、完全なインクルージョンという目標に合致する効果的で、個別化された支援措置がとられること。 5 締約国は、障害者が差別なしに、かつ、他の者との平等を基礎として、一般的な高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習を享受することができることを確保する。このため、締約国は、合理的配慮が障害者に提供されることを確保する。」 2. 労働と所得保障(障害年金など)との関連―その財源を含む。 3. 就労相談・調整センター、福祉事務所、ハローワーク、地域障害者職業センター、労働基準監督署などとの関連 4. 社会支援雇用事業所とデイアクティビティセンターとの関連 5. 社会支援雇用制度実現へのプロセス(そのためのコンセンサスづくり) (参考)「インフォーマル経済からフォーマル経済への移行に関する勧告」(2015年6月、ILO総会で採択)  インフォーマル経済におけるもっとも深刻なディーセントワークの欠如に対してとくに脆弱な層、たとえば、障害者など。 ○フォーマル経済への移行を通じて、加盟国は、法律上でも実際の運用においても、社会保障、ディーセントな労働条件、そして最低賃金をインフォーマル経済の全労働者に対して積極的に提供すべきである。最低賃金は、労働者のニーズおよび関連要因(各国の生計費および一般的な賃金水準を含むが、それに限られない。)を考慮したものでなければならない。