日本障害者協議会(社会支援雇用研究会)リーフレットテキスト 労働者として、働きたい。 わたしは、家の近くの作業所で、毎日お豆腐をつくっています。朝から夕方まで、決まった時間一生懸命働いていますが、「福祉サービス利用者」と言われます。 いつかは一人暮らしもしてみたいし、結婚もしたいけど、もらえるお金が少ないので心配です。 きわめて低い障害者の収入 福祉的就労施設のひと月あたりの平均工賃は約1万4,000円です(2013年度)。ここを利用する約1万人を対象にした調査では,ほとんどが障害年金を受給しているにもかかわらず、 年収112万円(いわゆる貧困線)を下回る人は56.1%,200万円以下の人(ワーキングプアとされる層)は98.9%にものぼります(参考:国民全体のワーキングプアの層は22.9%) グラフ略障害のない人とある人の収入別割合の比較(単位:%)出典:きょうされん調査,2012 一般就労へ移行できない現状 2006年に施行された障害者自立支援法によって,福祉的就労施設から一般就労へ移行することが重点化されました。しかし、移行率はわずか4.6%にとどまっており、就労施設で働く人は増加の一途をたどっています。 ここで働く人は「労働者」ではなく、「福祉サービスの利用者」という身分です。 こうした状況が半世紀以上も続いているという事実は、 人権上大きな問題であり、社会全体で解決すべき課題です。 「働く」は1つ。 二元モデルと対角線モデルの図略 障害のある人の働き方には、これまでずっと、一般就労(労働)と福祉的就労(福祉)の二者が存在し、どちらかを選ぶしかありませんでした(図1)。作業所で働く人は労働者として雇用されるのではなく、福祉サービスの利用者という位置づけです。 しかし、図2のように対角線モデルで考えれば、どのような状態にあっても、雇用制度と福祉制度を必要に応じて利用し、両者を統合した新しい働き方ができるはずです。 雇用されても福祉の支えは必要 一般企業等で雇用されて働いている障害のある人の中にも、福祉サービスの利用や福祉の専門家の支えを必要としている人が少なくありません。そうした支えが十分でなく、職場に定着しない人が多いのも事実です。 「Q.就職後に施設にしてほしい支援は?」 職場に来て話を聴いてほしい 50% 働けなくなった時の相談 33% 福祉的就労から一般就労に移行した人のアンケート 出典:JD調査,2014 持てる力を発揮できる条件整備 障害によって労働能力に著しいハンディがあっても、真に必要な個別の支援や条件整備が十分にあれば、持てる力を十分発揮し、その人らしく誇りを持って働けます。 例)・通勤時の送迎支援・相談支援などの人的支援・医療的支援(通院休暇等)・労働のための支援機器・施設,設備の改善 等 新しいしくみを作ろう。 社会が支える新しい雇用制度を提言します 何らかの障害があり、そのままの状態では、希望、適性、ニーズにあった仕事につくことが困難な人びとが、必要な支援を十分に受けて、働く機会と生計維持に見合う所得を得ることにより、障害のない人と同等の、人間としての尊厳にふさわしい働く権利を有する制度を、社会支援雇用制度(仮称)と呼びます。働く人は皆「労働者」です。 社会支援雇用のイメージ図略 働くための十分な支援と良質な仕事を提供する事業所を、社会支援雇用事業所(仮称)と呼びます。 社会支援雇用事業所は、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を目指し、障害のある人の多様なニーズに応えていきます。あらゆる個別支援が準備されてもなお、生活できる賃金獲得が困難な人には、所得保障のしくみも取入れます。 制度はその先の未来へ。 社会支援雇用制度を実現するための基盤づくり 図3にあるように、障害のある人自らの選択と決定を支援するため、就労についての本人の希望、適性、ニーズなどについて総合的なアセスメントを行う相談支援窓口を就労相談・調整センター(仮称)とします。  また、収入確保を目的とした働き方を希望しない人の日中活動や社会参加の場としてアクテイビティ・センター(仮称)を設けます。これらを支える仕組みを実現するには、雇用促進の法律ではなく、障害者就労支援法(仮称)の制定が求められます。 社会支援雇用の実現に向けて  − 誰のための制度? 本提言は、障害及び社会的障壁により職業生活に相当な制限を受ける人たちのための制度づくりを意図しています。将来的には、長期失業者、ニート、在日外国人など、人としての尊厳にふさわしい就労機会が得られていない人も含まれていくと考えます。この制度は、全ての人のディーセントワーク実現につながっていくものです。