
25年9月12日更新
VOL.45-6 通巻NO.543
■巻頭言 「おいしいおかゆ」現代版
JD理事 洗 成子
大河ドラマ「べらぼう」で「天明の大飢饉」が描かれ、飢えに苦しむ民衆の不満の矛先を田沼意知(たぬまおきとも)への“ヘイト”へと煽動するシーンが、何やら最近の世相にも似通うと感じながら、ふとグリム童話の「おいしいおかゆ」のことを思い出しました。
食うや食わずの母子家庭の主人公が魔法の鍋をもらいます。「おかゆを煮ておくれ、小さなお鍋」と唱えると、たちまち美味しいおかゆを作り出し、「もうおしまい、小さなお鍋」と唱えるまで、際限なくおかゆを出し続けるのです。「小さなお鍋」は母娘の飢えを救った素晴らしいアイテムです。でも、娘の留守中に空腹の母親がおかゆを作る呪文を唱えますが止める呪文を知らなかったのでおかゆは村全体を埋め尽くしていくのです。
さて、私たちもいくつもの「止まらない魔法のお鍋」に翻弄されていないでしょうか。
現代の「魔法の鍋」は、あらゆるモノを驚きの速さと量で生産し、企業は「もっと作れ、小さな工場」と命じ、消費者は「もっと買え、私のお財布」と誘惑されます。本当に必要なものを選び取るどころか、大量に生産され続けるモノの波に押し流され、まるで、おかゆの洪水の中を息苦しく進んでいく村人たちのようです。
インターネット、SNS、スマートフォンの普及により、「魔法の鍋」に「情報を作り出せ、小さなサーバー」「情報を共有しろ、小さなネットワーク」と命じるだけで、膨大な量の情報にアクセスできます。
しかし、この情報もまた、「もうおしまい」の言葉を知りません。フェイクニュース、過剰な広告、「完璧な生活」への承認要求、絶え間ない通知。本当に必要な情報を選び取る術を失い、情報の洪水の中で溺れてしまい、まるで、情報という名の粘り気のあるおかゆの中で身動きがとれない村人たちを彷彿とさせます。
最も皮肉なのは、これほどまでに「おかゆ」(富や資源)が溢れているにもかかわらず、その恩恵を均等に受けられない人々が多数存在することです。鍋のありかを知らなかったり、鍋から分け与えられる量が極端に少なかったりする人々は、「相対的貧困」という名のぬかるみに足を取られ、飢えとは異なる苦しみを味わっています。
おかゆを処理するだけで精一杯の村人のように、現代の格差社会に生きる私たちも、目の前の生活維持のために奔走するだけで、本当に豊かな暮らしを実は知らないのではないでしょうか。無限に生産される「おかゆ」を前に、「もうおしまい」と止める術、あるいは「本当に必要な量」を見極める知恵を手に入れたいと思うのです。「真の豊かさとは何か」そして「私たちの社会は、何を優先すべきなのか」そんなことを考えます。
■視点 対応分かれる二つの最高裁判決
JD代表 藤井 克徳
1年間のうちに、人権と社会保障に関連して二つの判決が最高裁から示された。大型訴訟の連勝であり、「司法は生きていた」を実感した人は少なくなかろう。勝訴判決の一つは優生保護法問題であり、もう一つは生活保護法の基準引き下げの違法性を問うものだった。簡単に二つの判決をふり返ってみたい。
優生保護法問題の違憲判決は、2024年7月3日に最高裁大法廷において下された。圧巻だったのは、優生保護法は1948年の成立時から既に憲法に違反していたと断じたことである。成立を図った国会を打ちのめすような判決だった。また、下級審で争われていた「不法行為から20年を経過すると賠償権は消滅」とする民法の規定をあてはめるか否かだったが、論外と言わんばかりに原告の主張を認めた。手術からどんなに時間が経過しても、賠償権は消滅しないとしたのである。
他方、生活保護法関連の違法判決が示されたのは2025年6月27日だった。こちらの方は最高裁小法廷で言い渡された。2013年度から新たに導入した基準の計算方法の大部分を、余りに恣意的とした。つまり、厚労行政による壮大なごまかし手法が見抜かれたのである。合わせて、厚労大臣の権限の濫用についても厳しくとがめられている。
そんな二つの歴史的な判決だが、ここにきて気になることがある。それは、それぞれの判決後の足取りが全くと言っていいほど異なっていることだ。ここで以前から感じていたことが頭をもたげる。良い判決はそれ自体一つの価値を有するが、その価値をさらに増幅させるかそうでないかは、判決の解釈にかかってくる。行政訴訟ともなれば、時の行政サイドの向き合い方が大きくものを言う。寿司ではないが、判決後の歩みは、「松竹梅」に例えればわかりやすかろう。今回の二つの判決をこれになぞらえると、優生保護法問題は松の道を、生活保護法問題は梅の道を歩まされているように見える。
異なった足取りを最も象徴するのは、大臣による謝罪の有無である。優生保護法の裁判は、判決の翌朝に加藤鮎子こども家庭庁担当大臣が原告らに謝罪した。判決から2週間後の7月17日には岸田文雄内閣総理大臣(いずれも当時)が官邸に原告らを招き謝罪した。ひるがえって生活保護法の裁判は本稿を書いている8月中旬現在、謝罪の気配はない。謝罪の無いところに、基本合意書の締結も、基準引き下げ処分の取り消し(生活費の遡及支払いなどの被害回復)もまともなものとはなるまい。
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なぜ、同じ最高裁判決にあってこうも対応に差異があるのか。はっきりしていることが二つある。一つは所管省庁の違いである。優生保護法の裁判はこども家庭庁であり、生活保護法の裁判は厚労省である。「司法は生きていた。でも厚労省は腐っている」、これは原告が言い放った言葉である。残念ながら的を射ていると言わざるを得ない。
もう一つは、自民党のかつての公約との関係である。2012年の衆院選公約に、「生活保護基準額を原則10%削減」と明示した。厚労省のごまかし手法も、全てはここから始まった。謝罪となると、この自民党公約の否定につながるのではという見方もある。
そうこうしているうちに、判決から2か月を経る。現状は違法状態が続いたままという異常事態。原告1000人余のうち既に230人以上が他界している。猶予は許されない。
佐野 竜平(日本障害者協議会理事 / 法政大学現代福祉学部教授)
Abdul Khaliq Zazai(アフガニスタン障害者アクセシビリティ連盟代表(AOAD))
第22回 「絵本をつくるとき、なんかフッと思いつくんだよね」五味太郎
品川 文雄(発達保障研究センター前理事長 / 元小学校障害児学級教諭)
NHK「みんなの選挙」④
みんなの選挙で私が最初に伝えたかったこと
直井 良介(NHK報道局 機動展開プロジェクト記者)
「すぐわかる!障害者差別解消法」を改訂しました!~障害者差別解消法改正を受けて~
松本 美帆(交通エコロジー・モビリティ財団)
第11回 ~ モスクワでただ一人、車いすの高校生 ~
古本 聡(翻訳業)
安達 朗子(北海道在住)
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