障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

25年7月18日更新

2025年「すべての人の社会」7月号

2025年「すべての人の社会」7月号

VOL.45-4 通巻NO.541

巻頭言 支援活動の共有を!


JD理事 田丸 敬一朗


 

 私は先天性の全盲で、実家は福岡県の筑豊地方にあります。昭和50年代当時としては珍しく、地域の小学校に通い、友達と一緒に走り回っては、田んぼや川に落ちたことも何度もありました。中学と高校は盲学校に通ったため、どちらの学校も、良い点・悪い点を知ることができました。

 趣味は読書、野球観戦、落語鑑賞など。好きなことは、さまざまな人と話すことや、知らない場所を訪れることです。

私はかつて、カナダでソーシャルワークを学んでおりましたが、その際、自身が障害のある留学生としてさまざまな壁に直面した経験を通じて、障害のある移民や難民が直面する課題に関心を持つようになりました。私が留学していた20年前には、障害のある難民・移民等、複数のニーズのある方たちへの支援や制度に関する認識はまだ乏しく、取り組みも限られていました。近年では「インターセクショナリティ(交差性)」という概念も少しずつ知られるようになってきています。

 インターセクショナリティとは、人種、性別、障害、階級、性的指向、性自認など、複数の社会的アイデンティティが重なり合うことで生じる差別や困難を捉え、理解するための考え方であり、障害のある子どもや女性など、複数の脆弱性を抱える方々の状況を考えるうえでも重要な視点だと考えられています。

2024年5月時点で、世界には1億2000万人以上の難民が存在すると報告されています。欧米では、障害のある難民ご本人が当事者として声を上げ、支援の活動を行う事例も増えており、私自身もいつかそうした方々のお話を直接伺いたいと願っています。

 私が所属する、難民を助ける会[AAR Japan]では、日本を含む世界17か国で活動を行なっており、難民支援や自然災害時の緊急支援などを通じて、社会的に弱い立場にある方々への支援に力を注いでまいりました。私自身も、今後、難民支援や緊急支援を行なっていく中でも、障害者、女性、子ども等、より困難な状況下にある方たちの支援を行なっていきたいと考えています。

 今後は、国内外で出会った障害のある人々の現状や、支援の取り組みについても、みなさまと共有していければと思っております。

 今年度より、JDの理事を拝命いたしました。まだまだ、学ぶことの多い立場ではありますが、みなさまと一緒に活動できることを楽しみにしております。

視点 選挙の季節に          


JD副代表 薗部 英夫



 選挙の季節だ。6月に東京都議会選挙があり、7月には参議院選挙がある。そんななか興味深い語り合いがあった。5月のJD政策会議での「障害のある人の投票バリアフリー」だ。パネリストはNHK「みんなの選挙」の足立義則さん、共同通信社の市川亨さん、盲ろう障害のある福田暁子さんの三人だった。

 NHK「みんなの選挙」は、2022年スタートのプロジェクトで、テレビやラジオの福祉番組、ウェブで展開し、さらには印刷した「コミュニケーションボード」も普及している。キャンペーン最初の放送はJD藤井代表のインタビュー。足立さんは、取材して初めて、障害者の選挙がここまで不便だということを痛感。大きく「3つの壁(投票所への移動、投票所の環境、情報が入らない)」ととらえ、問題や事例をわかりやすく整理して発信した。市町村の選挙管理委員会に調査したところ(回答率94.7%)、自治体の担当者からは「郵便投票の規定が厳しすぎる」「障害者の声を聞きたい」の回答もあった。

 共同通信社の市川さんが、投票のバリアフリー問題で書いた最初の記事は15年前。消費増税が争点となるなかで福祉サービスの受け手である高齢者や障害者が選挙情報の入手や投票で悩まされていると。当時、障害者団体は「選挙公報は国が責任をもって全員に届けるべき。障害者のことを考えていない公職選挙法は改正してほしい」と訴えていた。その後も「バリアフリー選挙、道半ば」「投票弱者」「一票の壁いつ解消?」などを報じているが、事態は進んでいない。自筆できないため投票所職員の代筆となるが、「職員には知られたくない。自分のヘルパーに代筆を頼みたい」と訴えた裁判記事もある。

 政見放送は手話や字幕があるのは半分程度。郵便投票は条件が厳しく、利用する人はごくごく一部。郵便投票の拡大をめぐっては「2018年に与党は一旦拡大すること決めたんです。だけど成立しなくてそのまま放置です」。

 日本の公職選挙法は、不正防止とか厳格化に重きがある。「でも、"厳格化"って合理的配慮ともっとも相性が悪いですよね」。

 盲ろう者の困難と思いを語ったのは福田さん。盲ろう者は、全く見えない全く聞こえないという人ばかりではない。「私は、いまは左目の視野が少しだけあり、中途失聴なので声で喋ることはできますが、受信方法は触手話が楽」と言い、困難は「コミュニケーション」と「情報アクセス」「移動」です、と。

 「選挙では私の場合、手話通訳者ではなく通訳介助者が必要。視覚と聴覚の情報を盲ろう者が使う方法で伝えるという特殊な仕事です。この派遣制度は年間240時間で月20時間なんです。この中で会話したり、買い物したり、医療機関に行ったりする。短い時間のなかで、誰が選挙に行きたいですか?まずは友達と話したい。買い物に行きたい。医療は受けたい。すると月20時間では足りないんです」「いろんな生活上の困難の中の一つとして選挙ってあるわけだけど、この選挙というのを解決しようとする前に解決しないといけないことだらけですね」。

 期日前投票に行こうと思うと、通訳介護者派遣制度の事前申込は1週間前とか2週間前とか都道府県によって違い、公示された時には間に合わないなんてことに。それに自筆での投票なので、触手話を使っている盲ろう者には点字は難しい。「通訳介助者は投票の時には別の公的なものとして支給してほしい」「郵便投票では点字での投票もできない。投票箱が回ってきてほしい」。彼女の願いだ。

 東京・武蔵野市では、投票の時に難しさを感じたもの同士で話し合って毎年模擬選挙をやっているそうだ。「マニュアルはあってもその通りにはすすまない。話し合いながら対応を考えてます」。

 わたしは、北欧の旅で総選挙を体験したことがある。民主主義はより多くの人々の意見を集め、進むべき道をみんなで見出していく。障害者の投票はすべての人のための投票環境、民主主義をつくっていくことと感じさせられた。JDは、権利条約、総括所見の実現にむけて、公職選挙法の改正含め、国への要請やキャンペーンをつづけていく。

2025年6月の活動記録


障害者自立支援法違憲訴訟『基本合意』15周年記念フォーラム大盛況!

多田 薫(障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会事務局長)




特別寄稿 「自分らしく、やりがいを持って生きていく」ために

山口 雪子




連載 出かけよう!おとなも読みたい えほん・児童文学の時空旅

第20回 「絵で読む広島の原爆」

品川 文雄(発達保障研究センター前理事長 / 元小学校障害児学級教諭)




連載 優生保護法問題の全面解決に向けて

第4回 滋賀県 優生文書開示をめぐって

森 敏之(京都新聞報道部記者)




連載 投票バリアフリー 第3回

NHK「みんなの選挙」②
「みんなのための」サイト制作で目指したこと

足立 義則(NHKコンテンツ戦略局・報道局副部長)




新連載 合理的配慮を巡る現状と課題 第1回

改正障害者差別解消法施行1年-聴覚障害者の現状から-

佐々木 良子(全国手話通訳問題研究会 理事)
長尾 康子(全国要約筆記問題研究会 理事長)




連載 赤國青春記

第9回 ~ モスクワでただ一人、車いすの高校生 ~

古本 聡(翻訳業)




トピックス


いんふぉめーしょん 

JDの声明 生活保護引き下げ最高裁勝訴判決にあたって




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